珍しく靖志くんに誘われて行った演劇。
お話は以下参照。また、ネタバレあり。
ヒトラーが一党独裁へ猛進していく様をアメリカのギャング(フィクションの人物である、アルトゥロ・ウイ)にみたてて描いたこのお話。
なんと、ブレヒトは1941年から書き始めたという。その洞察力にも精神にも驚く。あの情勢を、当時リアルタイムで俯瞰してこんなふうに昇華をしてた人がいたとは少し心強い。この演劇をふまえると、当時、見るひとから見れば「こういうヤバイことである」のは明白だったのに関わらず、国がその方向へ進んでしまったんだろう。しかしこれをブレヒトが出力するには、ヨーロッパからアメリカへ高跳びしていたという現場との物理的距離も非常に重要だったのだろうと想像する。
覚えてるのはウイを演じる草薙くんの輝き。少々舌ったらずで細身の草彅剛がこの役なんだ?、と最初疑問に思っていたが、オーサカモノレールのジェームズブラウン楽曲を背に踊り始めたら最後、きらきらと舞い、周りの熱気を面白い勢いで吸収していく渦巻きの中心でしかなかった。さすが一流アイドル。
ラストシーンはウイが独裁を極めて華やかにダンスをする。その際の印象的な2点。
・観客はギャングがおさめる街の民にみたてられ、「ウイに賛成の人」と手を挙げさせる。草薙さんファンの人が嬉々としてちらほら手を挙げるも、その数はまだ少ない。次の瞬間、大きな銃声がなる。もう一度「ウイに賛成の人」という質問がされると、さっきの2倍くらいの人々が手を挙げる。なんとまあ。
・草薙くんファンの人々が目を輝かせ手をたたき盛り上げる様子は、ライブさながらだ。まさに独裁者が生み出す熱狂。「2つのアイドル」が奇しくも重なる。
本編が終わると、おりてきた幕をスクリーンに映し出されるのは下記の言葉。
「熱狂する大衆のみが操縦可能である。政策実現の道具とするため、私は大衆を熱狂させるのだ」アドルフ・ヒトラー
アンコールによりまた幕が上がる。草薙くんが一礼すると、一斉に手を振るファンの人たち。そして再び退場すると、また上の言葉が現れる。少し笑ってしまう。
ウイの派閥であることを示す赤いシャツを、まるでライブTシャツのように最前列の女性2人が着用していたのもとても興味深かった。
決して草薙くんファンの人を茶化してるわけじゃなくて(私だってライブTシャツをきて、みんなと同じ振りをして気持ち良くなった経験がある)、
ただ、「ウイとスマップ=2つのアイドルを背負う草彅剛」という二重構造は確実に生まれていた。
その構造のなかで、熱狂と少しのスリルによる集団操作は明らかに容易いことを、舞台と観客のインタラクションを通して証明していた。
「今も昔も、独裁者を誕生させるのはそのような「空気」を生み出す民衆の心なのではないかというブレヒトの警鐘が現代にも響いてくるようです。」という公式の文言は「まさに」という感じで、演劇を通して確実にひとつのリアルを浴びる貴重な体験となった。
もうひとつ。心に残ったセリフを。民衆を操作するのに必要なのは(みたいな主語だったと思うが)「きつい抱擁と、おだやかな暴力」だという。
まさにモラルハラスメントの典型的な説明だとも思い、正直この状況は独裁者とかじゃなくても、自覚的じゃなくても、陥りやすいことだと思っている。
こういった行為が、いかに人の心を支配するか、強い印象を与えるか。常に気をつけないといけない気がしている。
最後に劇中で「ウイ!」といういうたびに、豊崎愛生さんの声が脳内で響いていたことを告白したい。