tanOSHI

たのしい?

地点「シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!」@KAAT

大隈講堂ロミジュリ以来の地点。突然未開の地を求めてシベリアへ渡ったとってもきつい体験を記したチェーホフの紀行「シベリアの旅」といくつかの短編をもとにコラージュしたものが本作でした。今回は演劇のことというより、そのときの稀有な経験を記しておきます。


演者6人は全員、馬車の一部でもあります。はじまってすぐ、彼らによる小さな反復横跳び(これはロミジュリを思い出す)と鈴の音が繰り返されます。彼らは白い世界を止まっては出発し、モスクワからシベリアへ向って進むのです。「ハイヤー!」、馬が出発、「あなたの〜アントン↑チェーホフ↑(手紙の結び)」、「ばーしゃ・ばーしゃ・ばーしゃ」、「ハイヤー!」、「あなたの〜アントン↑チェーホフ↑」、「ばーしゃ・ばーしゃ・ばーしゃ」、「ハイヤー!」、「あなたの〜」、「ばーしゃ・ばーしゃ」、「ハイヤー!」、「あなたの〜」、「ばーしゃ・ばーしゃ」、「ハイヤー!」、「あなたの〜」、「ばーしゃ・ばーしゃ」......反復横跳びの振動と音に、繰り返しの描写。そう、ここはきつい道中。でも彼らは進まなければならない...わたしはこの演劇を観ないといけない......でも...眠いよ...。チラ見するととなりのかずほくんも寝ておる。コンディションもうちょっと整えればよかったな...そんな風にしてしばしば目をつむって、うっすらと眠りたくなるとき、舞台の馬車の皆さんも「眠たい」「ねむたい」と言い始めました。ますます眠くなります。「馬車での睡眠とは、睡眠ではない。無意識だ」そんなことを言われたら、わたしも...無意識に......なって、ちょっとぼんやりする。ぼんやりすると、大きな音で目がさめる! わ! なんだかすごい快感が襲う、そう、ここはもうロシアの地、ここは馬車の上だったのだ!!!! 無意識のうちに!例の演者による反復横跳びの振動と緩急ある台詞の繰り返しは、ゆっくり、ゆっくりと、チェーホフの馬車に私をいざなっていたのだ! 睡魔から逃れると私は馬車に乗っていたことになる。 乗り物って振動するし、反復だし、それがずっと続くのが旅だね。これはまさに、あのなんとも言えない浮遊感と充足感。なんだか、最高にアドレナリン的、気持ちが良い体験となってしまった。ロシアの大地というものに、なんだかこの体験一発で惹かれ始めた自分がいる。でもそんな甘くないやんな、シベリアはさ。